瞋りは煩悩の根本ともいわれる、断つべき「貪り、瞋り、愚痴」の三毒の一つ。
ではなぜ、不動明王はその怒りを体現しているのだろう。
「瞋りは煩悩なのであれば取り除かなくてはならないものだよね?」
「仏様の教えと真逆なのではないか?」
そう思う人も中にはいるかもしれないね。
確かに、如来様や菩薩様のお顔は限りなく柔和で、見ている人のココロを静かにして、平和にしてくれるお姿をしているのに、不動明王は例外なく恐ろしい怒りの表情をしている。
顔面は怒りで青黒く変わり、左目は半目、両目とも獰猛な目つきで、額のしわは苦しそうに波立つ。
右の牙を上、左の牙を下に出し、髪の毛は燃え上がっているというものすごい形相。
これは不動明王がこの世で課せられた任務に影響しているんだ。
この不動明王は、密教で最高の仏様とあがめられる大日如来の化身と言われている。
言葉で言っても言うことを聞かない全ての悪魔・煩悩を降伏させ、正しい仏教の道に導くために、手には身を縛るための羂索という紐を持ち、また片方の手には煩悩を断ち切る剣を持っている。
やさしく説いても「馬の耳に念仏」の人間には、この不動明王が出現すると言われているんだ。
あの、世にも恐ろしい顔つきは、弱い人間に対してエネルギーを教え、力強く生きることを激励しているとも言われている。
まるで現代のお母さんみたいだね。
聞き分けの無い子どもの前にはお不動さん顔負けのお母さんが出てくる。
子どもには正しい道を歩んでもらいたい、その思いが、お母さんを鬼にする…
正しい考えに導くためには時には力づくで…
正しいこと間違ったことを正確に判断することのできない私たちでは、まさかお不動さんの真似をすることはできないけれど、その怒りの裏側には優しい心があるんだ。
あくまで私たちのことを他人事でなく、熱意をもって考えてくれるお不動さん。
そう考えると怖いお不動さんにも愛着と感謝の心がわいてくるよね。